わたしから、プロポーズ
片想いの切なさ


「本当に、一体何だっていうんだろう」

会議室へ向かうと、言われた通りにドアが少し開いていて、明かりが漏れている。
ノックも必要ないという事は、そのまま入ればいいという事なのか。
ゆっくりとドアの隙間から中を覗くと、そこには美咲さんだけではなく、瞬爾もいたのだった。
どうして、瞬爾がここにいるのか。
さすがに、足が引いてしまい中へ入れないでいると、美咲さんの声が聞こえてきた。

「瞬爾。さっきの話、途中になっちゃってごめんなさい。ピアスよね?」

美咲さんの言葉に、思わず息を飲む。
ピアスとは、やはりベッドルームに落ちていたものの事か。
そんな緊張が走った時、瞬爾の声が聞こえてきた。

「ああ、これ。この間泊まった時に落としていっただろ?全然気が付かなくてさ」

やっぱり•••。
あのピアスは、美咲さんのものだった。
そして、瞬爾のマンションへ泊まっていたのだ。
それを知って、心に大きな衝撃を感じる。
胸が苦しくて、息が出来ないほどに。

「ありがとう。探してたのよ。やっぱり、瞬爾の部屋に落としてたのね」

覗き見てみると、笑顔の二人がいる。
ちょうど、瞬爾が美咲さんにピアスを渡しているところだった。

「瞬爾のベッドって、あんないい香りがしてたのね。私が付き合っていた時は、全然感じなかったのに」

美咲さんの言葉に、瞬爾は苦笑いを浮かべている。
感じなくて当然だ。
あのベッドは、私たちが同棲する時に買い替えているのだから。
香りがあるとするならば、それは私の香りだ。

すると、美咲さんはゆっくりと瞬爾の腕をひっぱった。

「美咲?」

半歩だけ近付いた瞬爾が、怪訝な顔で見ている。
その瞬爾に美咲さんがすがるような目で見上げた瞬間、二人の唇が重なった。

それは、美咲さんから重ねたものだったけれど、二人のキスは私にはやりきれないほど深いものだったのだ。
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