わたしから、プロポーズ
木下部長の送別会の場所は、ヒロくんのメールによれば、繁華街のビルにある創作居酒屋らしい。
「ここの5階か…」
そのビルの前に着き見上げると、ただの雑居ビルにしか見えない。
他にも店は入っているけれど、どんな種類の店かも分からない様な名前ばかりの看板が出ていた。
「大丈夫なのかな…」
心細さを感じながら、エレベーターまでの階段を上ろうとした時、
「莉緒!?」
瞬爾の声がして勢い良く振り向いた。
すると、女性の人と立っている姿が飛び込んできたのだ。
30代くらいの落ち着いた雰囲気の人で、黒髪のロングヘアを斜めで一つに束ねている。
背も高く、170センチ近くありそうだ。
バランスの整った目鼻立ちで、まるでモデルの様だった。
「どうして、ここにいるんだ?まさか、木下部長の送別会が、ここで?」
驚いた様子の瞬爾の横で、その女性は口角を上げて微笑んだ。
「ねえ瞬爾。もしかして、この方が婚約者の方?」
“瞬爾”の呼び方で、この人が美咲さんだと確信した。
どこか挑発的な目で私を見ているのも、確信した理由の一つだ。
「ああ、美咲にも紹介しておくよ。坂下莉緒。俺の婚約者だ」
やっぱり美咲さんだった。
それにしても、瞬爾まで美咲さんを呼び捨てにするとは、この二人は別れてからも接点がずっとあったのだろうか。
普通、昔の恋人同士なら気まずい雰囲気になったりするはず。
少なくとも、私の前でくらいは、よそよそしい雰囲気になったりしないか?
それなのに二人には、何の遠慮もない。
それが、無性に腹が立った。