滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
無理もないだろう。
私が生まれ育った町は山々に囲まれた小さな集落で、
近くのコンビニに行くだけで車で十五分かかるというド田舎なのだ。
「お母さん東京来たことないもんね。ま、とりあえずスカイツリー行こっか」
辺りを物珍しそうにキョロキョロと見渡す母に苦笑いしながらも、私達は再び歩き始めた。
ーーいきなり、どうしたのかな?
電話は月に一回するようにと上京する前に約束をして、もちろん今でもキチンと守っている。
ついこの前も、実家から野菜やら米やら送られてきてその時に電話で会話した。
特に両親は変わった様子もなく、
気になるような話もしなかった。
なのに突然こっちに来るなんて…、
直接話したいようなことでもあるのだろうか。