竹林パラドックス
「失礼、トイレに行ってくるわ」

女性は立ち上がり、ふらついてシートにつかまりました。


「大丈夫ですか?」

「飲みすぎたわ、オェッ」


ふらふらと車両の外へ出た女性を見送り、わたしはビールの追加を注文しました。


「ハイ喜んで!」

あんまり喜ばしそうに見えない鶏頭は、すぐにジョッキを運んで来ました。


ジョッキの中のビールの沫が細かくけました。

弾けた沫に顔を近付けると、飛び出したガスから
『コケコッコ~!!⌒(ё)⌒』
と微かに聞こえました。


目の前のものを信じる努力。
目に見えないものを信じる勇気。


自殺未遂のあの患者は、自分の未来が見えない恐怖に負けたのでしょうか。

わたしは手に持った鶏皮の串を見て、縮み上がった彼のアレを思い出し、そっと皿へ串を戻しました。




新幹線は名古屋駅に到着しましたが、トイレに行った女性は戻りませんでした。

わたしは女性の分も一緒にお会計しました。

ソロバンを弾く鶏頭の筋肉質な腕には、豚の骸骨のタトゥーが入っていました。

豚の骸骨はわたしと目が合うと、パチンとウィンクして見せました。
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