竹林パラドックス
二人そろってべろんべろんに酔っぱらうのに、大して時間はかかりませんでした。


焼き鳥の盛り合わせがオススメなのよ、と女性は何度も焼き鳥を注文しました。


焼き鳥がテーブルに運ばれて来るたびに、鶏頭のバイトの数が減っていきました。


「わたし、一人旅してるのよ」

女性はぼんじりの串を取りながら言いました。

「ずっと看護師でね、忙しかったから。今やっとゆっくり旅行ができるの」


「あ、わたしも看護師です」

奇遇ね、と女性が笑いました。

「夜勤明けにそのまま新幹線に乗ったんです」


「本当に、夜勤は明けたのかしら?」


わたしは空になったジョッキをテーブルの端に置きました。


「どういうことですか?」


女性はふふんと不敵に笑いました。
そして窓の外を見ました。

「富士山・・・世界文化遺産ですって」

「信仰や芸術の対象だかららしいですよ」


「山が信仰の対象になるんだから、凄いわよね。アレ、火山よ」


新幹線はあっという間に富士山を通りすぎました。


「富士山っていつか噴火するでしょう? 噴火であの美しい姿がなくなっても文化遺産であり続けるのかしら」


「現在の姿だけに価値があるわけではないと思います」


わたしは串から軟骨を抜き取り、噛み砕きました。

隣を通った鶏頭が、ぎょっとしてわたしを見ました。


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