竹林パラドックス
「ちょっと、勝手に相合い傘しないでくださいよ」

「だって雨に濡れちゃうもの」


すました天狗にイラっときましたが、天狗なので我慢することにしました。

だいたいの人は、自分より弱い(可能性のある)者には優しくできるのです。


「どこまで行くんじゃ?」

「天満神社です。待ち合わせしているのです」

――― 確たる約束があったわけではないのです。

「まだお逢いしたこともないのですが、」

――― 電話越しの、口約束にすぎないのです。

「お逢いして、お礼を申し上げたいのです」



――― あなたは、わたしに道標をくださいました・・・と。



「会ったこともない人間のためにこんな山に登るとは・・・アイツみたいじゃな」

天狗が毛の生えた指をさしたところに、頭に矢が貫通した武士がしゃがみこんでいました。
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