ナンパ男がしつこい件について




ケーキは美味しくて仕方がなかった。



でも、椋太郎の調子は完全におかしくて。



「椋太郎?」




「…帰ろ」



「う、うん…?」



立ち上がって、店の外へと向かった。



手を握ると、握り返してくれて。




「どうしたの?」




「無理矢理キスしたろ?さっき」



「え、うん…」



「あんなの俺、初めてだったんだよ」



こっちを見ないで言った。




「いっつもベタベタしてくるような気持ち悪い女としか付き合ったことなかったし…、

そんな奴、始めから軽蔑してたから」



なぜか胸にチクリと刺が刺さる。



…そんな風でも、元カノの話をされるのはきつい。




「…俺も、怖かった。あのまま続けてたらって思うと」



一端会計をすませることで、椋太郎はその話をやめた。





そして、帰りの車の中でも




それ以上聞けることはなかった。







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