もう一度抱いて
私は立ち上がり、キョウセイが座ってるベンチに少し距離を置いて腰掛けた。


「最初はすげー怖かった。

腕も落ちてるだろうし、弾いたらまた姉貴を思い出して苦しむんじゃないかって。

でもさ、実際弾いてみたら、なんだか胸が高鳴って…。

気がついたら、夢中で弾いてたんだ…」


「……そうなんだ」


「音楽を聴くのも、ギターを弾くのも、もう二度とイヤだと思ってたのに、俺を姉貴の死の悲しみから救ってくれたのは、結局は音楽だったんだ。

だから、俺にとって音楽は何よりも大事な、なくてはならないものなんだ」


そう語るキョウセイの横顔は、少し柔らかい表情になっていた。


そうか。


だから、キョウセイは音楽に対して一切妥協しないんだね。


やっと、その理由がわかったよ…。


「あ、ごめんな。こんな話して…」


キョウセイがパッと私の方を向いた。


「ううん。話してくれて嬉しかった」


キョウセイのことなら、どんなことでも私は知りたいから…。
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