もう一度抱いて
しっかり汗を流した後、ドライヤーで髪を乾かし、お風呂場を後にした。


従業員専用の部屋へと、廊下をトボトボと歩く。


その時だった。


廊下の向こうからキョウセイが歩いて来る姿を発見してしまった。


キョウセイは、ある部屋のドアの前でピタリと止まる。


私はゆっくりキョウセイに近づき、キョウセイも私に気づいた。


キョウセイが立ち止まっていたドアは、宿泊客の部屋だ。


そうか。


今夜はキョウセイ、ここで京香と一緒に泊まるんだ。


何も話さないキョウセイ。


ただ、私の顔をじっと見つめている。


その視線に戸惑いつつ、私は目を伏せた。


「おやすみ…」


私がそう言うと。


「……おやすみ」


キョウセイは静かに答えた。


私はその後、振り返ることなく廊下を突き進んだ。


しばらくすると、ギィッとドアが開く音が廊下に響き渡って。


数秒後、今度はパタンと扉が閉まる音がした。


振り返るとそこにはもう。



キョウセイの姿はなかった。
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