禁域―秘密の愛―【完】
「何があったかはわからないが………、先生はいつも何事にも真面目に取り組んで、人にも動植物にも優しく接する綾瀬を見てきた。だから、俺はお前が人に簡単に責められるようなそんなヤツじゃないことは分かってる。だから………もし綾瀬が桐谷の父親と話して嫌なことがあったら直ぐに職員室に来なさい。………あまり一人で抱え込んだらいけないぞ」
「先生………」
先生は………多分、巧と私のことを知らないだろう。 なのに、こうやって普段の私を見てきちんと評価してくれた上で精一杯守ろうとしてくれてる。
その先生の思いに胸が熱くなった。
「瞳、どうしたの?」
すると、様子を遠くから眺めていた愛ちゃんが先生と私の元に駆け寄ってきた。
「あ、ちょっと………」
「ちょっと、って顔してない。………泣きそうな顔してる」
「ううん………何でもないよ」
「何でもないって顔してないって!本当に何があったの?桐谷君も様子がずっと変だし…………てか、瞳がこんな顔してる時に桐谷君ってば図書館で勉強だなんてあり得ないんだけど!?何なのよ、アイツっ」
愛ちゃん………凄く心配してくれているんだね。
その気持ちがとても有難くて仕方ない。
だけど………
「ん………とね?ここ数週間で色んな事がありすぎて…………巧も………私自身も心が付いて行ってないの。だから、もう少ししたら話すね………」
だけど……本当に今は、心を落ち着けて話せる自信がない。
だから愛ちゃんにも何も言えない。
「瞳………」
「ありがとう………愛ちゃん。こんなに私のこと、心配してくれて」
「………当たり前じゃない。瞳は可愛い私の親友だよ?」
「ふふっ………ありがとう」
愛ちゃんのその言葉に、私は笑った。久しぶりに………自然に笑えたような気がした。