禁域―秘密の愛―【完】
「っ、巧………でも、あの時私の事を………」
「…………何の話をしようとしてる? 俺はただ、間違って優斗さんの部屋に入っただけだ」
「えっ………?」
じゃあ…………、巧はそれ以外何もしていないって言うの?
あんなにハッキリと腕の温かさを覚えてるのに?
「っ、巧ーーーー」
「…………俺と、お前はもう別の道を歩んでいる。今更………過去に囚われても仕方が無い。それに………俺も、困るんだよ」
「困る………?」
「そうだ。桜庭家の協力があってここまで桐谷商事を立て直すことができた。そして、今桐谷商事は更なる発展段階に来ている。それを………昔の出来事で、壊されては堪らない。だから、あの二人………特に、朝香の前で変な行動は取るな。俺の事は忘れるんだよ…………瞳。いや…………綾瀬さん」
そう言うと………巧は、レストランへと入って行った。
けれど、私はしばらくその場から動けなかった…………。
「巧………」
やっぱり………巧は、忘れようとしているんだ。
ううん………忘れたんだ。
私の事なんて、もうとっくに。
だから、あんなに残酷な事が言えるんだ…………。
「っ、巧っ………」
私の胸は押し潰されそうだった。
突然の………禁じられた再会と、そして何より巧に忘れられていたことが悲しくて悲しくて仕方がなかった。