《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「先に、って…。そういう訳にはいかない。ちゃんと宿の前まで送るって」

「本当にいいのよ、荷物なんてほとんど無いし。あたし、この景色とこの風をもう少しだけ味わってたいの…」

「……」

 ラインアーサは何も言えずに、ただエリィの背を見つめていた。

「……一つだけ秘訣を教えてあげる。空間移動は、気配を感じる事が出来れば上手くいくわ。その場所の気配や人の気配でもいいから、感じ取って強く念じるのが大事なの」

「そうか! じゃあもし俺が空間移動の術を習得したらエリィの気配を探ってみるよ。ありがとう、エリィ!」

 移動術の要点を教えてくれた事に嬉しくなり、思わずエリィの正面に回り込みその手を取った。

「ちょっと!? っ…もう! 貴方ってそれ、わざとやってるの? 人の気も知らないで…!! けど、貴方のその笑顔…。ルゥアンダ帝国には昇らない太陽みたいだわ。……さあ、あたしはこのまま帝国に帰るからもう行って! さよなら。ライア」

「じゃあ。俺はさよならじゃあなくてまたな、って言っておくよ」

「馬鹿……」

ラインアーサはもう一度エリィに笑顔を見せると、戸外(テラス)席を後にした───。



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