《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~

事件

 ラインアーサは急ぎ足で王宮の渡り廊下を歩いていた。向かっているのは家臣たちが居住する別棟である。
 とある部屋の前に着くなり、扉を軽く叩いて部屋の主の返事を待つ。訪ねるには非常識な時間帯だということは重々承知しているが、どうしても逸早く確認をしたいのだ。暫くすると扉の向こうから淡々とした声が返って来た。

「こんな遅くに、どなた様かな」

「ジュストベル! 俺だ、開けてくれ」

 細く開いた扉から呆れ顔のジュストベルが顔を覗かせる。

「……ラインアーサ様。今が何時(なんどき)かお分かりでございますか?」

「ごめん。説教なら後から受けるよ、それよりどうしても知りたい事があるんだ! こんな事を訊けるのはジュストベルしか居なくて…」

 ジュストベルは深い溜息をつくと、仕方が無いといった表情でラインアーサを室内へと招き入れてくれた。

「少しお待ちください。今部屋を暖めますので」

「ああ、悪い……ありがとう」

「いえ。また風邪を引かれても困ります故」

 ジュストベルが暖炉に火を入れる。
 増大の煌像術(ルキュアス)がかけてある為、部屋は瞬時に暖まってゆく。身体が芯から冷え切っていたラインアーサには心底有難かった。
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