『華國ノ史』
 歴史を動かすのは名将では無い。

 時代の流れの中で名将が生まれるだけである。


 皇帝ブレイランドの言葉通り将軍ボーワイルドとの今後の方針で意見が食い違う。


 皇帝は東よりの侵略者を食い止めつつ再度華國領土内への侵攻を命令する。


 ボーワイルドは防衛に徹底するべきであると皇帝に唱えるが、

 皇帝はこれを却下する。


ボーワイルド
「魔法都市を陥落させたのはひとえに我が国の魔法使いよりも敵国の方が優位に立っていたからであります。


 魔法技術を我々に奪わせないように、城の地下に巨龍を潜ませ、

 それを妨害された今。


 我々が行うのは東の勢力を叩き、前線にいる華國側の魔法使いどもを削り、

 我が国の後身を育てる事こそが得策かと思われます。


 さすれば、五年、十年の間に軍事勢力図は大きくこちら側に傾きましょう。


 然る後に進行せねば勝算は五分と五分になります」


ブレイランド
「ならん。

 そこまで待てぬ。

 そなたは今より西の関所の後方に控える軍と合流し、

 華國西方の防衛ラインをことごとく踏破せよ」


ボーワイルド
「では東は…」

ブレイランド
「好きにさせておくさ、お前は西より敵の王城へと向かい、華を摘んでこい。

 西には大きな兵力は無いとの報告だ。


 お前ならば突破するのは容易いであろう?」


ボーワイルド
「東より種が飛んで来ているにも関わらずですか?」


ブレイランド
「煌皇軍五大将軍のうち三将を東に向かわせている。

 案ずるな、兵力では我が国の方が上だ」


ボーワイルド
「しかし、北も今回の一件で総力を上げて来るでしょう。

 そうなれば…」


ブレイランド
「くどい!

 華國王の首を持って来たならば意見を聞いてやる。

 ボーワイルド将軍に命ずる。

 今より出撃準備に取りかかれ!」


ボーワイルド
「…仰せのままに」

 
 このまま防衛に徹すれば必ず華國を撤退へと向かわせる事が出来ると確信していただけに、

 ボーワイルドは悔しくて堪らなかった。


 兵力を分散させれば確固に戦う為に死者が多く出る、

 更に東には敵の精鋭、危うくなる可能性がある。


 長い目で見れば東を攻略し、損害を最小限に抑える事を先決すれば勝てるはずであった。


 しかし、ボーワイルドは従うしか無かった。

 皇帝の命は絶対であったからだ。

 そして、もしここで歯向かえば軍事系統そのものが危うくなる事もあったからである。

 
 ボーワイルドは皇帝の理知を上回る野心が残念でならなかった。

 
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