『華國ノ史』
 煌皇国皇帝ブレイランドの玉座の前に道化は紐で巻かれ、

 ひざまづかされていた。

 
 ブレイランドは面倒臭そうにピエロを問いただした。


「それで、道化、堂々とした裏切りか?」


「いえ、今は激動の乱世、より高く売れる方にいくのが真の知恵者という者でしょう?」


「で、どういった事で私を笑わせる?」


「知っての通り私は内部調査員。

 私の情報は空中ブランコより面白いはず」


「綱渡りが得意と見える。どう信用すればよいか?」


「華國の第二王子、まあ今では唯一の王の子ですが、

 最近王族の目を開眼したようです」


「だから?」
 
 
 ブレイランドはそれがどうしたとばかりにピエロを追い詰めた。


「ふむ、煌皇国皇帝は頭が良いと聞いていたが、

 私が道化だと思い皆が嘘を教えたようだ。

 私に非がある。首を落とされよ」

 
 ブレイランドはピエロが頭の回る者だとこの時判断し態度を改めた。


「落とされる前に楽しませろ」


「ではまず、トリートが人を見る眼を持ったという事は、

 煌皇の密偵が危ういという事。

 
 むざむざ無駄死にさせる事が無くなったという点。

 
 更に、我々だけが知っている、いやそちらも掴んでいるかも知れないが、

 血族に能力を持つ者が出た時点で世代が交代するという事。

 
 つまり、リンスが覚醒した時点で現王のブレイブリーの先は短かったという事、つまり」


「トリートさえ葬れば王族の血は途絶えるとでも?」


「いやいや、大国をまとめられるだけのよりしろが無くなるという事です。

 しかもトリートは復讐に燃え、無謀にも前線に立つ」


「亡き者にしてしまえば」

ボーワイルド
「国は割れる。そんな事は百も承知。

 しかし、この時期に目が開くとはな。

 道化、何が望みだ?」

ブレイランド
「控えよボーワイルド」

ボーワイルド
「信用できませんなこの男。

 戦場では命を掛けて戦っていた奴ですぞ?」

「控えよと言ったのだ」

ボーワイルド
「…仰せのままに」

ピエロ
「ここも戦場だ。命をかけている」

ブレイランド
「見返りは?」

ピエロ
「内部調査員だと申しあげたでしょう?

 指定する地域の所領を」

ブレイランド
「何か旨味がある土地、察するに金鉱か?」

ピエロ
「やはり噂通り頭が良いようですな」

ボーワイルド
「なりません!」

ブレイランド
「三度目だボーワイルド!直ぐに前線に向かえ!

 人の欲の強さを知らぬ潔癖な軍人めが!

 そもそも貴様が不甲斐ないせいで!」


 ボーワイルドは初めて見せる怒りに満ちた気迫にブレイランドも口ごもった。


「もう、よい、行け」

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