『華國ノ史』
 一同を心配させたその男の子はセブンと名付けられた。

 
 生まれた家の三男坊になる。


 本来ならば七人兄弟がいるはずだったが、三人兄弟の末っ子として生まれる。


 栄養も足りず、医療も進んでいないこの時代では特に珍しい事ではなかった。

 
 それでも生まれた瞬間に七度死に、七度息を吹き替えした事は皆をびっくりさせた。


 この農村の大人が子供であった頃から全ての赤子を抱き抱えた助産婦でさえ今回のような例は始めてだと驚いた。


 家族の中では一際小さかったセブンはこの先、しっかり育ってくれるんだろうかと皆は不安に思ったが、その心配をよそに当人は兄二人に続いて元気一杯に育っていった。


 一家の長男は背が高く、長男には似つかわしくない奔放な性格をしていた。
 
 名前は「トール」


 次男は横幅が広く、食いしん坊であった。
 
 名前は「マッチョ」


 長男トールはいつも下二人を引き連れ、マッチョは嫌々それに付き合い、セブンはいつも二人に泣かされていた。

 
 二人は不器用ながらも可愛がったつもりであったが、年の差が開いた幼いセブンには村でも特にやんちゃな二人のいたずらに付いていくのが大変だったのだ。
 
 
 三人の父は非常に仕事熱心で誠実、セブンは生まれて来なかった四人の加護を受けていると信じ込んでいた。

 
 母もまた父に負けずたくましく働き、泣き虫のセブンを溺愛している。

 
 祖父は祖母に先立たれてからは畑仕事をやめ、隠居生活を楽しんでいるようだった。

 
 これがセブンの家族であった。

 
 多くの農家が小屋を構えるこの地方は国の南に位置し、豊かな土壌に恵まれていた為、一次産業が盛んであった。

 
 セブンの家族もまた稲を育て、牛を飼い、少しの野菜を育てている。

 
 セブンはこの村の多くが好きだった。


 鼻をくすぐる草の匂い、柔らかい赤土の道、村人みんなが汗を流し仕事をしているこの村を心から愛していたし愛されもしていた。

 
 セブンの発育は平均的速度だったが、家族は皆大きく、そしていつも上の兄弟と一緒にいるので周りからは「チビ」と呼ばれる羽目になる。

 
 だが、セブンはそれも嫌いではなかった。
 
 
 皆の目は優しく、口元を緩めてチビと言っている。
 
 
 悪意の無い、むしろ愛のこもったその言葉はセブンにとって、とても心地の良い響きだったのだ。
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