伝わらない、伝えられない
「それで…改まって話って何?明とちとせ、待ってると思うよ?」
葵を連れてきた場所はもう定番になりつつある屋上。
いきなり引っ張ってきたから少し不機嫌だ。
「俺さ、葵に話していない事があるんだ」
「話して、いない事?」
不思議そうな顔をする葵。今までお互い何でも話してきた間柄だ…
首を傾げるのも当たり前だと思う。
背中に嫌な汗が伝う。
想いを伝えるだけなのに、こんなにも緊張してしまうものなのか。
「俺は葵が…好きだ」
「は?」
驚きを隠せないといった感じの葵の表情。
俺がそんな感情を抱いているなんて考えもしていなかったんだろうな…
ドンッ―――
突然後ろから聞こえてきた大きい音。
それに反応して振り向くと、葵以上にびっくりした顔付きのちとせがそこには居た。
「あ、あの…葵も悠斗も、教室にいなかったから、探してて…それで……」
話す声が震えていて動揺しているのが分かった。
段々と足が後ろへと後ずさる。
「ごめん!!」
言った瞬間にちとせは階段を駆け降りていく。
「ちとせ」
「待て!」
追いかけようとする葵を声で制した。
今を逃したら、絶対聞かなくなるから。