氷の魔女とチューリップの塔
ロゼルの背中にしがみついて、そのままの勢いでガラスケースを蹴り飛ばし、ロゼルの体を引き倒す。

ビシッ!!

ガラスケースにひびが入る。

そして…

そのひびから、赤い液体が染み出してきた。

「血!? まさか!!」

ガラスの破片が姫に当たったというのではない。

ガラスケースそのものが、傷口から血を流しているのだ。

『オオオオオオオッ!!』

ケースが悲痛な叫びを上げる。

スリサズは身を起こしたが、ロゼルは床にしりもちをついたまま茫然としている。

「借りるわよ!」

スリサズがロゼルの鞘から剣を引き抜いた。

(重っ…!)

見よう見まねだが見慣れた構えを取り…

「たァッ!!」

渾身の突きを繰り出す。

剣がガラスを突き破り、闇の魔法使いの断末魔が響いた。



魔法が、解けた。



割れたガラスケースの中で、一瞬前まで輝くように美しかった姫君は、ドレスは古びて黄ばみ、体は干からびた骸骨に成り果てていた。

「お姫様…
本当は、国が滅びた時に死んでいたのね…」

周囲ではチノリアゲハが溶けるように消えていく。

全ては幻…
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