その苦くて甘くてしょっぱいけど…
「酒の上での戯言だ。俺がこれから話すことは他言無用だ。

それはなにより、母さんの…

ほのかのためだ。みずき、聞いてくれるか?」

その縋るような瞳に押されて…

僕はただ頷くしかなかった。

「ほのかは元々俺の彼女じゃなかったんだ…」

父は突然昔話を始めた。普段そんなにおしゃべりではない父の話。

自分の身を切る思いをしてまで僕に何を教えたいのだろう…


「母さんには…

ほのかには大学時代、眞人(まさと)という彼氏がいた。

俺は眞人の友達で、俺たちは学校ではいつも一緒だった。

おれもほのかが好きになったが…

ほのかが選んだのは、眞人だった。だから、諦めて、友達として二人の幸せを

見守るつもりだったのに…

大学を卒業した眞人は突然失踪した」


「それから、失踪宣告を受けるまでの7年間、ほのかは眞人を探し続けた。

いつまでたっても眞人を諦めないほのかにイラつくこともあった。

他の女が目に入ったこともあったが…

結局ほのかの事が忘れられなかった。彼女が眞人を諦めるまで

ただひたすらに待ち続けて…

結婚した」


「でもそれは弱ったほのかに付け込んでいることに他ならなかったんだろうな。

段々ほのかがこっちに向くのがうれしくて。それでもほのかの気持ちは

今でもあいつの物だろうが…」
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