その苦くて甘くてしょっぱいけど…
僕はその雰囲気に…

嫉妬した。


「みずきの事は俺に任せてくれないか?」

母は無言のまま頷いた。その頷きを確認してから父は、

僕に向かってそれ以上何も言うなという目をした。

それから静かに自分の席に戻っていった。


食事が終わるまで、僕たち3人は無言だった。


家に帰ってから、母は疲れ果てたようで、父が寝室まで伴って行って消えた。

僕もゆっくりとお風呂に入り、

そのまま自分の部屋に上がってしまおうかとも思ったが…

リビングに戻った。


そこにはさっき寝室に消えたはずの父が一人静かに座り、何かを飲んでいた。

「みずき、お前も飲むか?」

グラスを勧められ、僕は頷いて父の向かい側に座る。

目の前のグラスに注がれる液体。おそらく酒だろう。

父はこの頃呑まなくなった。若い頃は仕事の付き合いで飲むこともあったから、

それなりに呑めていたが、年も重ねた今、家でまで飲もうと思わないらしい。

その父が僕に向かって勧めてくるお酒…

男同士の話。本当は外でしたいところなのだろうが、母の体調を考えると

仕方がないのだろう。


「父さん…」

「まずは何も言わず、1杯飲め」

父はそう言って自分の持っていたグラスの液体をあおった。

僕は…

酔った勢いで話したと思われたくなかったので、

グラスを両手で握り締めたものの、その中身を口にすることはなかった。
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