危険なキス
「失礼します」
二人でお辞儀をして、校長室を出る。
少し歩いたところで、先生は突然「くくっ…」と笑い出した。
「ったく、ほんとちょろいな」
「……」
この姿、校長先生たちが知ったらどうなるんだろうか……。
あたしは呆れて物が言えなかった。
「お前も何か言われても、適当にごまかせよ」
「分かってますよ……。
でもよくあんな嘘言えましたよね。本当にあたしのお母さんに連絡がいったら、どうしたんですか?」
あたしのお母さんは、湯浅先生は父親の病気で実家に帰ったと思っている。
だから、まさかこの学校で教師をしているなんて思わないだろう。
「ああ。そしたら、先にお前の母親を丸め込んでたな。
そもそも、退職って言葉出せば、絶対にこれ以上突っ込んでこないと分かってたしよ。
一応俺、人気教師なんで。物理の成績、いっきに上がってるらしいぜ」
そう言いながら、面白そうに笑う先生。
とことん性格が悪い……。
改めてそう思った。