危険なキス
 
だけど、そんな先生のおかげで、クラスからの奇異な目もなくなり、あたし的にも一安心だった。

そのままホームルームが行われ、「さよなら」の挨拶で次々と教室から人が出る。

あたしはこのあと予備校があるので、いつも通り鞄を持って、図書室へと向かった。



「……っと……この場合はこの数式で……」


周りに聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でぶつぶつ言いながら問題を解く。
その間も、別の生徒からこそこそ見られていたけど、とくに気にしなかった。


もともとこんな性格だ。

一人でも平気なタイプだし、人の意見や、ましてや陰口なんか気にしない。

あたしは時間まで、ひたすら一人で勉強に専念していた。


「そろそろかな」


時間は5時になろうとしている。
予備校は6時から始まるので、区切りもいいし、参考書類を鞄に詰めた。

昇降口にまわって、上履きから靴へ履きかえようとしたとき……


「あ、れ……?」


自分の下駄箱には、何も置いていなかった。
 
< 307 / 382 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop