危険なキス
 
「お前、帰んなら俺も……」
「楠木」


あたしは麻衣子の存在には気づかなかったふりをして、楠木の顔を見た。


「麻衣子、すごくいい子なの」
「え?あ、うん」
「だから、よろしくね」
「なんだよそれっ……」


あたしは精いっぱいの笑顔を向けると、エレベーターの閉じるボタンを押した。

楠木は慌てて、扉を抑えようとしたけど、


「お似合いだよ」


もう一度笑顔でそう言うと、抑えようとした手を引っ込めた。


扉が閉まると同時に、涙が溢れてきた。

だけど泣きたくなんかない。
自分でしたことに、涙なんか流したくない。


あたしは唇を強く噛むと、走ってカラオケの店を出た。
 
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