君が好きだから嘘をつく
「そうだよね。あれはもてて当たり前だね。あの長身で、色気のある整った顔立ち。仕事もできて、そしてあのさりげない優しさ。落ちない女はいないでしょ。あれで笑顔見せたらね・・普段笑顔見せないじゃない?是非笑顔を見てみたいよ。まったく彼女がいないのが不思議だよね、もったいない」

確かに澤田くんは社内でも大人気だ。よく「澤田くんが好き」とか「かっこいい!」とか「誘っても断られた」とか噂話を耳にする。

彼は入社当時から年齢の幅広くもてていた。
でも誰かと付き合うどころか、噂すらも聞いたことなかった。

なぜ彼に彼女がいないのか?それは私もずっと不思議だった。


「私も澤田くんに彼女がいるっって聞いたことありません。いつも仕事で遅くなるって健吾と飲む時もあまり参加してこないし」

そう私が答えると、咲季先輩はニヤッと笑って、

「そっか~。彼女がいなくて仕事ばかりなんてさ、あんな澤田くんでももしかしたら片思いする大切な子でもいるのかな?」

楽しそうに口角を上げて言った。そんなこと考えたことなかった。
澤田くんの好きな人?いるのかな?しかも片思いって・・・

「え~?澤田くんが片思いですか?何か想像できない」

「人は分からないものよ。爽やかな顔した山中くんは彼氏持ちの子に片思い。クールで大人気の澤田くんには彼女がいない。そしてこんなに可愛い楓も、モテモテなのに片思いに夢中なんだからさ。この同期3人みんなフリーなんだから、社内の男も女もそりゃ~自分こそは!って動くでしょう?楓もちゃんと幸せ掴みなさいね。まあ~私も人の事ばかり言ってられないけどね」

咲季先輩ったらケラケラ笑って楽しそうにお酒を進めてる。
すっかり楽しんで咲季先輩と別れて電車に揺られながら、少し遠いけど美味しいお店だったなって思い出した時、ふと気がついた。
あんなに冷やかし半分だったけど、私が健吾を密かに想っている会話を、偶然でも会社の人に聞かれないように、あえて会社から離れたあのお店に連れて行ってくれたのだと。

そう気付いたら心が温かくなった。

そして咲季先輩に『幸せになれ』って言われた気がした。

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