君が好きだから嘘をつく
「はぁ・・・」

大きく深いため息が出る。何をやっても後悔ばかりで、心がどんどん苦しくなる。
あの日から戻ることのない私達の関係は、きっとこのまま変わらない。
それでも私の健吾への気持ちは変わらない。変えたいのに、変えることができない。
もしもう一度前のように接することができても、健吾の恋を笑顔で応援することはもうできない。
結局同じ所をグルグルと回り続けてしまう。

「はぁ・・・」

もうどれだけ考え続けただろう。
考えても考えても、答えを出すことができなかった。
でも今日伊東さんと話して感じたことがあった。

   -健吾と伊東さんはどうなるのかなー

   -もう健吾の好きな人を見たくないー

   -もうここにいたくないー

気持ちがどんどん追い詰められていく。

考えながら営業部のフロアに戻って自分のデスクに座ったけれど、もう残業をする気になれなくてバッグとコートを持って、まだフロアに残って仕事をしている人達に挨拶をして会社を後にした。
歩きながら何度も考え直す。でももう自分にはそれしか選択できない。

   -もう、終わりにしようー

自分の気持ちを伝えることなくずるい逃げ道だけど、それでいいと心に決めた。
そしてここ最近考えていたことを決意してスマートフォンをバッグから取り出す。

自分の決心が変わらないうちに・・迷いださないうちに。

駅への帰り道ではない路地裏に入って雑音のない場所で電話をかける。
4コール鳴らしたところで相手の声が聞こえた。

「もしもし?」

「もしもし・・今電話大丈夫?」

「うん、どうした?」

英輔の優しい声が耳に響いた。

「うん、あのね・・前に言っていた転職の話・・まだ大丈夫かな?」

私の言葉に英輔は驚いたのか、一瞬息を吸ったのが耳に聞こえた。

「・・どうした?楓。何かあったのか?」

「うん・・・うん」

うまく言い出せずに話そうとしても涙が出そうで、鼻の奥がキューっとなって硬く唇を噛んで堪えた。
それを電話越しに感じたのか英輔はそれ以上聞かずに、

「今どこ?あと30分位で帰れるからそっちに行くよ」

そう言って今いる路地裏近くにあるダイニングバーで待ち合わせの約束をして電話を切った。

先にお店に向かい寒かったのでとりあえずカフェオレをオーダーして、気持ちを落ち着かせようとテーブルに両肘をついて手のひらで顔を覆い何も考えないようにする。ゆっくり呼吸をし、閉じた瞼を指先で軽く押さえると暗い闇に包まれて少し落ち着くことができた。

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