君が好きだから嘘をつく
「もう・・決めたんだね」

「はい」

頷いて答えた。この前英輔に相談した数日後に面接の日程を連絡をくれて、先週行って来た。まるでコソコソ悪いことをしているような気持ちに少しなったけど、気持ちに蓋をして入社試験と面接を受けた。そして一昨日採用の連絡と英輔から電話をもらい、来月1日付け入社という契約となった。
今月もまだ月初めだけど引継ぎを考えると、みんなにも迷惑をかけるので早く対応をする為に今日部長に話そうと辞表を用意してきた。

「後悔しない?」

相変わらず寂しそうな顔をして聞いてくる咲季先輩に、

「・・・分かりません」

正直に答える。きっと後悔すると思う。どうして離れたんだろうって何度もため息をつくと思う。
でも、これ以上健吾に嫌な自分を見せたくなかった。もう昔の2人には戻れないから、目をつぶりたかった。

「寂しくなるなぁ・・」

私の気持ちを理解してくれたようで、多くを語らずそう呟いた。
その言葉が心に染みて、会社を辞めて咲季先輩とも離れることに強い寂しさを感じた。

「勝手なことしてすいません」

「楓のことだから、考えて出した答えでしょ。新しい仕事も大変だと思うし、相談はいつでも乗るし、今の仕事の引継ぎもできる限りやるからさ」

その言葉とともに咲季先輩の笑顔も見ることができた。そしてその言葉に心が温かくなった。

「咲季先輩、ありがとうございます」

気持ちを込めて頭を下げた。

「で?その誘われているって何の仕事?」

「内容は違うけどまた営業職です。咲季先輩に前に話したことあるけど、同級生の男友達が声かけてくれて甘えてしまいました」

「うっそ~!男友達って・・あの昔好きだったって言う・・」

「声が大きいです!」

咲季先輩が驚くのは当然だけど、周りに人がいないとはいえ咎めてしまった。

「ごめんごめん、驚いちゃって。でも本当に?・・そっか・・・」

「はい」

何となく言葉が出なくて、咲季先輩の顔を見つめた。
咲季先輩も私の顔を見ながら小さく何度も頷いて気持ちを理解してくれたようだ。
その後気持ちを切り替えたように笑顔になった。

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