君が好きだから嘘をつく
「あ!車にタバコ忘れた。ん~結構歩いたから買ったほうが早いか。ちょっとそこのコンビニ行って来る。楓にも何か買ってこようか?」

「うん。ホットコーヒーがいい」

「じゃあすぐ戻るから待ってて」

そう言って健吾は道の反対側のコンビニに歩いていった。

階段に座って海を眺めていると心が和む。
いつも仕事に追われ、健吾への抑えた想いで心がトゲトゲしている感じで苦しかった。
そんな気持ちも目の前の波を見ていると忘れられる感じがして、いつの間にか微笑んでいる自分に気付く。
海を眺めながらゆったりした時間を過ごしていると、後ろから声が聞こえた。振り向くと自分よりも若い男の子2人だ。

「1人で何しているの?散歩?俺達とドライブしない?」

「お茶でもいいよ」

あまりに近い距離にいてちゃんと言葉が出ない。

「あ、いえ、私一人じゃないので。すいません」

「いいじゃん。そこに車停めてあるからとりあえず行こうよ」

「景色いいとこ連れて行くからさ」

馴れ馴れしく誘ってくるその様子に嫌悪感が増す。

「いや、連れがいて今待っているところですから。本当に無理です」

言っているそばから腕をつかまれる。力が強くて痛い!本当にヤダ!

「いいから、とりあえず行こうよ。車乗って」

「嫌!」

2人に腕と腰を持たれたところで、腕を持った男の腕が離れたと共に、聞きなれた声が耳に届いた。

「悪い、その手離してくれる?俺の連れだから」

私の横に現れたのは健吾だった。冷たい目で男達を見ている。

「何だよ、男いたのかよ」

「悪いけど、他行って」

健吾と男達の空気は悪かったけど、近くに人がいたせいか男達は立ち去った。

「何、短時間でナンパされているんだよ。お前もちゃんと断れよ。連れて行かれるぞ」

「だって、ビックリしたんだもん。健吾いないし。無理やり引っ張っていこうとするし。やだもう・・・よかった健吾が来て」

「しょうがないな、またボーと海見ていたんだろ」

「ボーっと見るよ、一人なら」

「・・・そうだな、ゴメン俺がコンビニ行っていたからな。ほら、コーヒーお待たせ」

温かいコーヒーを手渡してくれた。
でも本当に健吾が来てくれてよかった。私もちゃんとハッキリ断れるように言えないとダメだな。
少し冷たくなった風が肌を冷やしたけど、温かいコーヒーが両手を温めてくれる。

健吾も今買ってきたタバコを吸って海を見ながら、「ちょっと目を離すとこれだよ・・・」と呟いた。
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