君が好きだから嘘をつく
「よろしかったらどうぞ」

「ありがとうございます」

須藤さんも笑顔で受け取ってくれた。
そして部長はというと、またグラスを空にしている。まったく!1人じゃ追いつかないよ。
たわいない話をしながら私も料理をいただき、部長のお酒が日本酒に変わった時、須藤さんの携帯着信音が鳴った。

「ちょっと失礼します」

そう言って部屋から出て行った。

『嫌!2人にしないで~』軽く口が開いた状態のまま、須藤さんが出て行ったドアを見つめる。

「柚原さん」

部長に名前を呼ばれ振り向くと、満面なる笑顔で手招きしている。意味は分かるけどすぐに動けない。
視線も止まり、そんなつもりじゃないけど部長と目と目が合ったままの状態になる。

「柚原さん?」

もう一度呼ばれてハッとする。

「はい!」

慌てて返事をすると、部長は手招きを続けて私を呼ぶ。

「おちょこが空だからお酌してくれるかい?」

「あ!はい。気がきかなくて申し訳ございません」

そう言って向かいに座ってお酒を注ごうと手を出すと、そっと手のひらで止められた。
意味が分からず部長を見ると、

「せっかくだからこっちへ来てごらん」

須藤さんの座布団をパンパンと叩きながら言っている。
行くべき?迷っても聞く人がいない。
しょうがない・・須藤さんもすぐ戻ってくるだろう。お酒を持って、部長の隣に座ることにした。

「どうぞ」

おちょこに注いだが1口で飲み、またおちょこを差し出してきた。
私もお酒に手をかけて注ごうとしたところで手首を掴まれた。

「え?・・・」

顔も手も止まったまま固まってしまった。そして視線も部長を見たまま。

「驚く必要はないよ。綺麗な手だと思って。真っ白でスラッっとした手だねって褒めてるだけだよ」

褒めてるだけと言いながら手首から指先をさするように触ってくる。
須藤さんもいない、健吾もまだ来ない?電話もできない、どうする??
動けない私に部長が私の手首を引いて近寄ろうとする。

嫌だ!どうしたらいいの!
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