君が好きだから嘘をつく
君の好きな人
「そろそろ向かうか・・・」

約束の時間から30分過ぎた。

一度会社に戻った時、健吾に『一緒に行こう』って言われたけど、『寄りたい所があるからお店で会おう』と約束して先に会社を出た。
本当は寄りたい所なんてなかったから、予約した洋風居酒屋から少し離れたカフェで気持ちを落ち着かせる為にコーヒーを飲んでいた。
もう、澤田くんも来ているかな?さすがに3人はキツイ。
普段時間は守る主義だけど、今回だけはあえて遅刻した。

でも、もう行かないと・・・ため息を1つ吐いてカフェを出た。


「よし、行くか」

店の前に立ち気合を入れて店内に入った。予約名を告げると、健吾達がいる部屋の前まで案内された。


「遅れてごめんね・・・」

一言謝って部屋の中に入ると、そこにいたのは健吾と伊東さんの2人だけだった。
向かい合って座る光景を見て、一瞬めまいの様な動揺を感じる。
そんな私の気持ちに気付くことなく、健吾と伊東さんは笑顔を見せた。

「ああ、待ってたよ。よかった、隼人がこっち向かってるけど少し遅れるって連絡あったから」

「あ・・そうなんだ」

最悪・・澤田くんがまだ来ていないなんて。
目の前に健吾と伊東さんの姿を見ただけで胸がザワザワ騒ぎ出した。


耐えられないかもしれない・・・


不安な気持ちに襲われたけど、ここまで来てしまったのだからどうにか耐えないと。とりあえず席につこう。そうして2人の傍に立ったけど、向かい合って座っている2人のどっちの隣に座るか一瞬悩む。
とりあえず近いと言う名目で伊東さんの隣に座ることにする。
でも本当は隣に座れば、伊東さんの顔をあまり見なくて済むからだ。
座る時に伊東さんを見たら、彼女がニコリと微笑んだ。

「こんばんは、遅れちゃってごめんなさい。柚原楓です」

「こんばんは、伊東麻里です。よろしくお願いします」

「職場で顔は見るけど、話すのは初めてだね。よろしくね」

「はい。今日はみなさんの集まりに混ぜて頂いてすいません」

彼女のやわらかい笑顔と違って私は営業スマイルになってしまう。健吾にはばれるかな?
しかし伊東さん笑顔が可愛いな、声も柔らかいし。
私達の自己紹介が済むと共に、健吾も会話に入ってきた。

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