君が好きだから嘘をつく
「ありがとう、じゃあ行って来るよ。隼人も楓も今日はありがとうな。また明日、伊東さん行こうか」

「はい。すいません、ごちそうさまでした。今日は本当にありがとうございました、お先に失礼します」

私も手を振って2人を見送った。

2人の姿が見えなくなって、今まで作っていた笑顔がサーっと解けた。
それと同時に焼酎のロックが運ばれてきた。澤田くんが受け取り、1つを私に差し出してくれる。

「ありがとう」

グラスを傾けて氷をカラカラ鳴らすと、心の中の寂しさがにじみ出てきそうだった。
健吾行っちゃったな。自分で伊東さんの最寄り駅までちゃんと送って行くように言っておいて落ち込むなんてバカだよね・・・

「柚原、乾杯しようか」

ボーっとグラスを見ている私に、澤田くんがグラスを寄せてきた。私も慌ててグラスを近づける。

「乾杯」

「乾杯」

グラスを軽く合わせると、ゴツンって鈍い音がした。
一人じゃないのだからちゃんとしなきゃ。
一緒に飲んでくれている澤田くんにも申し訳ないし。気持ちを切り替えて、焼酎をグッと飲んだ。

「どう?これ芋焼酎だけど、柚原おすすめの黒糖焼酎のほうがよかったかな?」

澤田くんが微笑みながら聞いてきた。
そうだ、この前3人で美好に行った時に澤田くんと黒糖焼酎飲んだんだ。
私のやけ酒メニューみたいなものだから、確かに今の心境にピッタリだけど、このお店のメニューにはなかったね。

「ううん、この焼酎も美味しいよ。澤田くんはどっちが好み?」

「う~ん、黒糖焼酎美味しかったな。また飲みたいね。でも、これはこれで美味しいよ。柚原はザルだからいろいろ飲めないと潰されちゃうからな」

「ひどいな~、いつもいつも健吾に付き合って飲んでいたらこうなっちゃったの。私だって、あまり飲めないの~って言う可愛い女の子でいたかったよ」

もう、人を酒豪扱いするんだから!かっこいい顔して人をからかったりしてさあ。
健吾に付き合って飲んで、一人で落ち込んで飲んで・・ってそんな生活送っていたから、確かに酒豪の女にできあがっちゃったのだろうな。

ん~、やっぱり可愛くないね。

「でも、楽しく飲めるから柚原と飲んでいるとお酒が美味しく感じるよ。それっていいことじゃないかな?」

澤田くんって、そうゆう事をサラッと言えるんだね。
女の子にもてるの分かるなぁ。酒豪すら褒めるなんて。彼女になる人は幸せだね。


これから飲むって言っていた割には1杯だけおかわりしてお店を後にした。
澤田くんもっと飲むつもりじゃなかったのかな?でもまあ・・いいか。
『とりあえずこの場は俺が出すからいいよ』と、その場は澤田くんがサッと会計を済ましてしまった。明日、健吾と割り勘にしないとね。

外に出ると、少しだけ冷たい風が気持ちよかった。

でも、ほとんど人通りのない道を見たら健吾と伊東さんが帰って行った後姿を思い出して、また気持ちが引きずられるようになる。
歩き出しても、視線が前に上がらない。


   ーもう健吾帰ったかな・・・伊東さんと一緒にいないかなー

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