君が好きだから嘘をつく
駆け引き
定時を過ぎて会社に戻り、エレベーターに乗ったところで大きなため息をつく。

「疲れた・・・」

誰もいないエレベーター内で、つい声が漏れる。

真奈美と久保くんの結婚式に参加する為に、なかなかハードな週末を過ごした。
まあ、帰りは健吾が迎えに来てくれて車に乗ったままだったから、帰りの疲労はなかったのだけど。
寝る前に健吾のことや、久しぶりに会った英輔のことがグルグル頭の中を巡ってなかなか寝付けなかった。
だから朝目覚ましアラームが鳴っても目を開けるのに苦労してしまった。朝の冷えた空気も起きたくない気持ちを増長させた。

営業部のあるフロアの階につき、エレベーターを降りて休憩スペースに向かう。
自動販売機横のイスに座っている2人の男女に目がいった。

健吾と伊東さんだ。

もう見慣れた2ショットのはずなのに、2人が一緒にいるところを見る度に心臓がギュッと苦しくなる。

「お疲れ様」

話しかけたくないけれど、ここまで来て戻るわけにも無視するわけにもいかない。
自然な感じには見えないかもしれないけど、笑顔も作って2人に見せる。

「あ~、お疲れ」

「お疲れ様です」

健吾に続いて伊東さんが笑顔で会釈してくる。
私の笑顔と違ってスッキリと可愛い。私も伊東さんに向かって会釈する。

「何か疲れた顔してるな、大丈夫か?」

「うん、週末ハードだったから、今日の外回りはきつかったよ。何か甘いもの飲みたくてさ」

バッグから財布を出してホットのミルクティーを買う。

「とりあえず早く帰りたいから、残った仕事やってくる。じゃあ伊東さんまたね」

「はい」

私が伊東さんに向かって手を振ると、同じように笑顔で手を振りながらペコッと頭を下げてきた。
2人にまた笑顔を見せてから自分の部署へ歩く。

小さくため息をつきながら、温かいミルクティーの缶をギュッと握りしめる。
自分のデスクにバッグを置いたとこで、咲季先輩に声をかけられた。

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