甘き死の花、愛しき絶望
 新設校であんまり偏差値高くないけれど、一応、進学校なのにねぇ、なんて。

 笑う明日香を、まぶしい光を直接見るときみたいに目を細めて眺め、智樹は小さくつぶやいた。

「……だって……明日香と……同じ……高校に通いたかったから……」

「なあに? 聞こえない~~♪」

 智樹の声が、本当に聞こえなかったのか、どうか。

 楽しげに笑いながら、また走り出す明日香の背を追って、智樹は叫んだ。

「るっさいな! オレだって、やるときはやる男なんだぞ!
 今は、本気を出していないだけで、本当は!」

「あっはははは♪
 ウサギが『オレ』だって♪ 『男』だって♪
 似合わなすぎて、ウケるんですけど~~」

「明日香!」

 智樹は、声を大きくしてみせたけれど、当の明日香は、聞いちゃいなかった。

 なにしろ、客観的に見ても、智樹はそこらへんに、普通に生息している『男子』っぽくない。

 スレンダー、と言えば、聞こえは良いけれど、要は男のくせに、華奢過ぎて、運動すれば、すぐに疲れてしまうのだ。

 だから、外に出ないで家にこもりがちになり、陽に当たらないことで実現した、白い肌。

 明日香より、だいぶ低い背は、一番最初に出会った幼稚園時代以来、高校生になっても、その差を埋められなかった。
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