あづさ弓
 男が帰らないでいる間に、女には求婚者が現れた。最初はきっぱりと断っていたものの、次第に女の心は揺れ始めた。子のいない女は、夫が帰って来なければ三年で再婚することが許されている。二年が過ぎても男からはなんの音沙汰もなかった。もしかしたら、三年が過ぎても帰ってこないのではないか…。
 悩んでいるうちに、とうとう三年経ってしまった。女は夫を諦めて、求婚を受け入れることを決めた。
 「夫は帰って来ませんでした。今宵、あなたと結婚致しましょう。」
と約束してしまった。ところがそこへ、京へ行ったきりになっていた前の夫が帰って来てしまった。
 男は、懐かしい扉の前に立ち、扉を叩いた。
 「私です。ただいま帰りました。さぁ、この戸をお開けなさい。」
その声を聞いて、女は驚き、戸惑った。どうして今更帰りになったの?私はもう新しい夫を持つことが決まっているのに。あぁ、あと一日早ければ…。震える手で筆をとり、歌を呼んで差し出した。
 『あらたまの 年の三年を 待ちわびて ただ今宵こそ 新枕すれ』
 三年もの間待ちわびていたのに、あなたは帰っていらっしゃいませんでした。それなので、ちょうど今夜私は新しい殿方と結婚するところですのよ。
 
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