君がいないと落ち着かない

後ろのドアの脇からおどおどと覗いてくる姿が可愛らしかった。
「ちー君!呼んでるよ!」
後ろのドアの近くに座る女子が声を上げる。
廊下に出ると彼女が両手で持った本を差し出してきた。
視線は下げたままで、下ろされた前髪から出た鼻の頭をぐらいしか見えない。
「本です」
ザワザワとうるさい廊下では、しっかりと青倉さんの声を聞くことは騒音が邪魔をして出来なかった。
「それじゃあ……」
本当に微かにしか聞こえないなかで、あの子は一度も目を合わさずに行ってしまった。


動物の鱗のような表面には周りより窪んでJYANDOLと金色の文字が描かれている。
「榎本くーん、そんな分厚い本を読むなんてどうしたんですかい?」
榊がふざけた口調で、席に座る千尋の肩に寄り掛かってきた。
「君も本を読んだらどうですか?榊さーん」
「千尋にこんな本読めるわけないだろ?」


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