隣の席の西城くん
席順
私ですが。
机の上に忘れ物です。
「誰のかしら?」
「さぁ」
前回の傘といい、私の机は忘れ物保管場所ではない。まったくどうなってるんだ。傘はありがたかったけど。
友人の手に渡ったその忘れ物を、引き続き見つめてみるけれど・・・こんなどこにでもあるようなシャーペンなんて、誰のものかそうそう見分けがつかない。
でも、シャーペンなのだ。
傘と違って、高校生にとっては勉強をするための必需品だ。
もしかしたらこのシャーペンの持ち主は困っているかもしれない・・・というのはもちろんあくまで口実で。
誰のか分からないシャーペンを持っているというのは、なんとなく誰のものか気になってしまって、なんか、こう、気持ち的にめんどくさい。
「はぁ・・・仕方ない」
「え?なにするの?」
そのシャーペンを手に立ち上がり、休み時間特有の楽しげなざわつきに向けて声を張り上げる。
「このシャーペンだれのー!!」
私の声に気付いたクラスメイトは、一瞬だけ静まって、それからなんだなんだとこちらを見てくる。
西城くんに至っては、私の声に驚いて、ビクリと肩が跳ねたのを視界の端に見た。
「あのシャーペンて武井じゃねぇ?」
「いや、俺のじゃねぇわ」
「だれのー?」
「あぁ・・・この教室にはいないのか。ありがとー」
聞こえてくる会話に耳をすますけれど、誰も自分のものではないらしい。
それぞれが会話の続きに戻っていく中、私も再び椅子に座る。
前の授業は選択授業で、私は教室にいなかった。
えぇと、ここで授業受けたクラスメイトは誰だっけ?
「西城くんて、さっきの授業この教室だった?」
「違うよ。でも・・・」
ゲーム画面がポーズ状態にされて、西城くんが片方の耳からイヤホンをとった。
「ここで授業受けた人なら知ってるよ」
・・・流石、西城くんは知っている。
「おぉ、じゃあその人にシャーペン預けよ」
「ん?預ける・・・?」
「え?うん」
「・・・本人に返せばいいじゃん」
「え?」
「ん?」
「・・・・・・・・・・・・へぇっ?」
思わず変な声がでた。
「ここで授業を受けた人」と聞いて、「この教室で授業を受けた人を知っているのかぁ」なんてぼんやり考えていた私は甘かった。
西城くんは「この机で授業をした人を知っている」と言っていたのだ。
・・・なんか、だんだん怖くなってきたな。