隣の席の西城くん
「・・・っ・・・・・・て、起きてってば!」
何かに呼ばれて目を開ければ、見知った友人が私を揺すっていた。
「授業終わったわよ!」
「んー・・・うぉはおう」
「珍しいわね、授業中に寝るなんて」
「うんー」
満面の笑みで自分のノートを差し出してきたので、私は満面の笑みでノートを押し返した。
嘘泣きをし始めた友人は置いといて・・・私はゲームをしている西城くんに向けて、早速用意していた言葉を投げてみる。
「西城くん、ノート貸して」
「え」
・・・西城くんが焦っている。
ゲーム画面に『YOU LOSE』の文字。ミスして負けてしまうくらい焦っているらしいその様子に、私は内心「やった!」とガッツポーズ。
そりゃ、ゲームばかりしていたら黒板写してないよね。
「そうよ西城!ノート貸しなさいよ!」
状況を理解したらしい由希が強気になりやがった。
「さっさと出しなさい!このゲームオタク!!」
「そこまで言ってない」
「出さないならあたしと席を替わりなさい!」
「それはお前の欲望だ」
呆れてため息をつきながらそういったが、その由希の言葉に西城くんはピクリと反応した。
「わかった、はい」
「「えっ」」
すんなり差し出された、紙一枚。ルーズリーフだ。
ノートをとっていないと決め付けていた私と由希は、一瞬ポケッとしてから、慌ててそれを受け取って確認する。
「・・・~~~しっかり書いてんじゃないの!!」
きっちりきっかり書いてある上に、右側の方に解き方まで丁寧に書かれている・・・。
「ノートなんか書いてないとものだと・・・」
「いつもは書いてないよ」
その少し笑ったような声に、そうなのか・・・と心底不思議な目を向けると、そんな私の目を一瞬だけ合わせてすぐ目をそらす。
「寝ろって言ったの僕だし、代わりにノートくらいとっておこうと思って書いておいた」
「えぇ・・・すんなり出してよ。無駄に期待したよ」
「だって、僕の字汚いから・・・。高野さんが貸そうとしてたから、それならそれの方が嬉しい」
字汚いから・・・、ともう一度繰り返した西城くん。
その言葉に、もう一度ルーズリーフに書かれた文字に目を落とすけれど・・・別に普通だと思うよ?
それに私は、期待通りかと思ったらどんでん返しで良い方へ裏切られた事の方が、字うんぬんより重大なことだった・・・。
いつもとは少し違うけれど、西城くんは、私にノートを貸すことになることを知っていた、ということか。
「ん?西城、あんたノート提出のときどうするのよ。提出しないの?」
「ちゃんと出してる。携帯で黒板写メって、家に帰ってから書いてる」
「普通逆だよ」
「まぁね」
そうやって会話している間も、机の下のゲーム機を叩く指は休まない。
なんだろう、頭いいから一度に二つのことが出来てるのか、それともゲームが呼吸で会話しかしていないような感覚なのか。
「ほんと不思議」
「あぁぁもういいじゃない西城のことなんて!それより・・・」
近くのカフェでイケメンのバイトくんが入った、とはしゃぐ友人の話を聞き流しながら・・・私は、自分の数学のノートに丁寧に書かれたそれを挟んで片付けた。
「あ、西城くん」
寝て起きて、意外とすっきり軽くなった頭はとても重要なことを思い出してくれた。
「なに?」
授業中に、寝るのはよくありませんが。
「ありがとう」
「・・・どういたしまして」
相変わらず、ゲーム画面を見たままの西城くんの口元が上がっていたのは、気のせいじゃないといいと思った。