隣の席の西城くん

変わらず




私ですが、昨日の今日で目が合わせられません。


・・・なんてことはありませんでした。



「おはよ、西城くん」

「・・・おはよ。普通だ」


寝て起きたらスッキリした。


「何が変わったかって考えたら、西城くんの私の呼び方くらいだから」


好きだとか付き合うとか、そういうことを言われたわけではないし、西城くんがそういう意味で言っていたわけではないかもしれない。
そう考えたら、取り乱していた私の方がおかしかったんだって結論に至った。

そっか、といつもの真ん中分けで、いつものようにゲームに戻った。



「ケーキ屋さんにケーキバイキングの券をいただいたわ!」

「・・・なんだかんだすっかり常連になってるみたいね」


紙一枚を意気揚々と振ってやってきた由希は、最近リバウンドしたらしい野村くんの席に座る。
今まさに野村くんが座ろうと椅子を引いたそこに座ったのだ。


「かわいそうに・・・」

「ケーキバイキングの券をいただいたわ!」

「あそー」

「ケーキバイキングの券を・・・」

「あーそー」



「弥生」

「うん?」



呼ばれてそちらを見れば、私が落としたであろうペンを差し出した西城くんがいた。


「おー、ありがと」


私がそれを受け取ると、また机のしたでゲーム機をいじり始めた。
あぁいつもどおりの光景だ。

なんだか静かになった由希の方を見ると、椅子から立ち上がりわなわなと震えている。
一体何だというのだ。


「名前・・・」

「あ?」

「弥生って呼んで・・・」


あぁ、うん。昨日からだし。
今までずっと呼ぶに不便だったろうと思うよ。

ふらりと西城くんの机の前に動いたそいつは、何故か仁王立ちして腕を組む。


「あたしの方がたくさん呼んでるわよ」



・・・何を言い出すかと思えば。



「そりゃそうだ」

「僕は昨日初めて呼んだからね」

「これとは保育園からだもんなー」



その私の言葉に何故か誇らしげな顔をする友人を見て、呆れた顔をして見せた。
なにに嫉妬心を燃やしてるんだ。まったく。



「弥生!」

「なに」

「弥生弥生弥生やよいやよい・・・」

「すごい怖い」


変な対抗心を燃やしてうるさいこの友人は、文句も言わずただ静かにゲームをしている西城くんの大人しさを少し見習った方がいいと思う。

ふと下を向いたままの顔が、少しだけこちらを向いたことに気付いた。



やよい。



・・・やかましく私に絡んでいた由希は気付いていなかったけれど、本当に小さく、もしかしたら口だけしか動かしてなかったかもしれない。




でも・・・確かにそう動いたのを、私は見たのだった。

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