隣の席の西城くん
周りの人

委員長


委員長ですが。

最近、西城がよく喋るようになりました。


・・・衛藤さんにだけだけど。



「あっ、おはよう西城くん」

「っ・・・はよ」



俺には、挨拶はしてくれる。
でも、なんでかな?会話はさせてくれない。
今だってまるで逃げるように自席に向かっていった。



「で、どうしてだと思う?」

「どうしてあたしに聞くのよ」

「衛藤さんと西城くんに近いのが君しかいないからだよ」

「自分で近付けばいいでしょ!」

「近付いても逃げられるんだよ」


笑顔で言えば、訳がわからないというような顔を向けられる。
ハハッ、いい顔。


「嫌われてんじゃないの」

「うーん、そうかも?」

「あ!だからって弥生に近付かないでよね!!」

「えー」


それでは最後の手段が使えないじゃないか。
まったく、衛藤さんにはとんだ護衛がいたものだ。
衛藤さん自体は、高野さんに執着している様子はないのに、不思議なペアだと思う。


「あぁ、西城について一つ確実に分かったことは。いろんなことが見えているってことくらいよ」

「見えている?」

「弥生は『知っている』ってよく言うのよ」

「・・・へぇ」


知っている、ってのは気になる。
衛藤さんは西城から何をどう聞いて「知っている」と言っているのか、そして西城はどこまで知っているのか。

最近衛藤さんと喋るようになった西城が気になっていただけだけど、ここまできたら本当のことを知りたい。




「西城くん」

「・・・なに」


真ん中分けの長めの前髪から、心底嫌そうな顔が覗いた。


「西城くんて、俺のこと嫌い?」

「・・・嫌いってか、苦手」


ビックリした。
西城て、そういうことを面と向かって言えない人だと思ってた。
むしろ、人に対してビクビクしているから、そんなにハッキリ物事を言えるとは思わなかった。


「・・・どうして?」


西城の前の席に座ったまま、話しかけてからまだ一度も俺の方を見ない。
話しかけるときだけゲーム機から視線が横へ逸れる。
それなのに、ちゃんと声は俺に向いて飛んでくるのだから、少し不思議だ。

あ、唸ってる。

と思ったら、ゲームを叩いていた指が止まり、俺の方をチラリと見た。


「腹黒そうだから」

「・・・そんなことないよ?」


何を根拠に、と口に出そうになった言葉を引っ込めて、代わりに笑顔で否定の言葉を投げる。

・・・それで怯んで会話は終わりだろうと思っていたけれど、西城は口を開いた。


「文武両道、容姿端麗」


なんだ、嫉妬か。
なら話はここまでにしようと口を開こうとしたが、それよりも早く西城の声が飛んでくる。


「心の中じゃ僕の呼び方違う人」

「え」


つい、小さく声が漏れてしまった。
視線と意識はゲーム機へ、口だけが自動的に動いている。


「笑いたくないときにも笑う。笑顔でごまかす」


ほうける俺に、相手の言葉は止まらない。


「騒がしい女の子が嫌い。囲まれると逃げる」

「ちょっ・・・と、待とうか」


こいつなんで、俺に対してこんなに・・・。


「なによりも、」



―――――・・・弥生に気があるのが、個人的に嫌。




初めて目を合わせて言われた言葉に、目を見開く。
頭の中で、言われた言葉を何度か繰り返し、相手の目を見返した。
3秒、目の中に強い光を垣間見たと思った瞬間に目をそらされる。

相手が目を戻したそのゲーム機の画面には、「YOU WIN!」と勝利の言葉が讃えられている。


「・・・西城」

「っ!・・・何」


急に代わった呼び方に驚いたのか、ピクリと反応して顔を上げた。
あ・・・こいつよく見たら顔整ってるな・・・。


「これから、よろしくな?」


いつもの笑顔で小さく言えば、相手は嫌そうな顔付きで「やだ」と返し、そのままゲーム画面に意識を戻してしまった。
これ以上、喋る気はないらしい。


あぁ・・・衛藤さんが言っていたらしい『知っている』という言葉がわかった気がする。
今まで興味も眼中にも無かったし、自分にはなんの害もないであろう完全にノーマークのやつだった。
根暗なゲームマニアのオタクだと勝手に決め込んでいたのは俺だ。
もしかして、それも計算の内かもしれない。

・・・どうやら、知らなかったのは俺の方らしい。


「クラス委員長として俺もまだまだだなぁって感じたよ。聞いてる?西城くん」

「聞こえない」


今もきっと、俺の言葉の中からたくさんの意味を汲み取っているであろう西城に、いつもの愛想笑いとは違う心底楽しい笑顔を向けた。
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