ムサシ・ひとり
すぐに多数の門人たちに囲まれたムサシ、四方八方から斬りかかられては、一本の刀では危うくなってしまう。咄嗟に小刀を抜いたムサシ、両手でもって襲いかかる門人たちの刀を振り払った。

強靱な腕力を持つムサシならではの戦法、二刀流が生まれた。

風車の如くに、ぶんぶんと刀を振り回しながら、門人たちを寄せ付けない。
一歩二歩と歩を進めながら泥田から抜け出たムサシ、息を切らす門人たちを後目に、脱兎の如くに駆け出した。

唖然とする門人たち、まず泥田の門人が脱落した。
続いて、あぜ道を駆けた者たちも息が上がり、ついには三人だけが追い駆けることになった。

突如踵(きびす)を返したムサシ、「ウオーッ!」と怒声を浴びせながら斬り付けた。
三人は、抵抗する間もなく切り倒されてしまった。

ムサシに追いついた他の門人たち、その様を見て戦意を失ってしまった。
誰からともなく「ここまでだ…」との声が挙がり、その場に泣き崩れた。

意気揚々と京の町に立ち返ったムサシを待っていたのは、予想だにしなかった非難の声だった。

「いたいけな幼児までをも斬り殺すとは、なんと非道な男なのか!」

ムサシ一人(いちにん)対多数の門人という図式であるのに、ムサシを擁護する声はなかった。
ムサシをけしかけた商人ですら、「やり過ぎましたな」と無碍もない。

“何のために一文の銭にもならぬことを…”
悔やむムサシだったが“嘆いても時は戻らぬもの”と、傷心のまま京を後にした。
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