さかのぼりクリスマス

「わ、はい!はじめてだ、こういうの!!」


 ドラマでしか見たことない、そう言うわたしに、先輩はもっと笑って、持ち上げたグラスを、こっちに傾けてきて。

 わたしのグラスと、先輩のグラス。うすいガラス同士がふれあって、チン。


「「かんぱい」」


 溶けたろうの海に浮かぶ、炎。重なった、先輩とわたしの声。

 ああ、うん。いいなぁ。ドキドキと、ワクワクと、トクトクと。すべての配分がちょうどよくて、心地いいな。

 この時間を、買ってるんだなぁ。


「1回目、かぁ」
「ん?」
「ううん。はじめてってトクベツだけど、たぶん、2回目も3回目も、こんな時間なら、きっと楽しいんだろうなぁって」
「はは、ナナちゃんはすぐに先のこと考える」
「妄想家なんです」
「そりゃいいことだ」
「ふふ。あと何回、こうやってグラス重ねられるかなぁ」


 すこし傾けたグラスに、一部だけ、わたしのくちびるのあと。

 はりきって塗ってきた口紅も、大方とれてしまって、先輩の目にうつるのはきっと、いつもと変わりないソボクなわたしだ。


「60回」


 そんなことを考えていると、先輩が急につぶやいた。



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