さかのぼりクリスマス

「えっ」
「平均寿命って80歳くらいだから、死ぬまで飲めるとしたら、60回？だろ？」
「……先輩そうやって、またすごいこと言う」
「べつにすごくない。80－20の計算だぞ？」
「そういうことじゃなくって」


　そういうことじゃ、なくって。

　それって、「これからもずっと一緒にいる」って宣言してるのと同じ、なんだけどな。わかってるのかな、先輩。

　わたしだけドギマギ。先輩の肩は、やっぱりリラックスした定位置にあって。


「…前から思ってましたけど、先輩って人が照れるようなことも、平気な…まじめな顔して言いますよね」
「そんなことないよ」
「あります」
「ない」
「ある！！」
「ないんだよ。あのなぁ、」


　先輩のつま先が、今度はわたしのヒールをつつく。


「…照れてるときこそ、まじめな顔作っちまうの。昔っからのクセ」


　そんなことを。

　視線は料理に置いたまま、ものすごくまじめな顔で言うから、声を出して笑ってしまった。


　これからわたし、先輩のまっすぐな眉を見るたび、きっとしあわせだ。

　これから。


　ずっと、数えていけたらいい。チーン！と、グラスを合わせる音。

　平均寿命を80年として、あと60回。