君と歩いていく道
真崎の病室を出た紺野は、まっすぐに大月のもとへ向かっていた。
彼女がどれくらいで退院できるのかを聞くために。
このところ本当に忙しく、あまり日本に帰ってくることができずにいた。これからはもっと傍にいたいと、自分からそう思った。

自宅はカリフォルニアにあるのだが、真崎にも仕事があるために呼ぶことが出来ない。
今がその時なのかもしれないと、紺野は踏み切ることを決意する。
そのためにはまず、彼女に回復してもらわなければ。

「すまない。今良いだろうか。」

ノックとともに入ってきた紺野に驚きもせず、大月はどうぞと椅子をすすめた。

「彼女の退院のことだ。」

「でしょうね。」

紺野は大月の言葉を待っている。

「怪我だけなら、すぐに退院してもいいぐらいです。」

「そうか。」

「ええ。でも、問題は心の方なんです。」

紺野のことなのでわかっているだろうが、傷より何より、真崎の心の方が一番の問題だった。せめてカウンセリングを始められるぐらいまでに回復してくれなければ、何も始まらない。

「俺は彼女を、アメリカへ連れて行くつもりだ。」

積極的な紺野の言葉に驚いた大月は、少しだけ眼を見開いてしまう。
だが、それも良いのかもしれない。
出来ればしばらくピアノから遠ざけた方が良いと思っていたし、紺野が傍にいることは真崎にとって必要不可欠だ。

「わかりました。ですが、薬を処方することは出来ません。まだ、本人から何も聞けていない状態。つまり、カウンセリングも始まっていないので。」

このままでは紹介状すら書いてやることは出来ない。
紺野は神妙な面持ちでうなずいてから、大月に礼を言って出て行った。
あと一時間もすれば回診が始まる。

少しでもいいので、真崎が自分から何をどうしたいのか話してくれることを祈りながら、大月は紺野の訪れで止まっていたカルテの見直しを再開した。

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