バラとチョコレート(X'mas 仕立て)
「カヲルさん、ちゃっかり自分の分、残してる。ずる~い」
仕事を終えた販売スタッフの女の子が作業台越しに、恨めしそうな視線を送ってくる。
ショーケースのケーキは完売御礼。
空になったショーケースを見てオーナーはほくほく顔だった。
疲れているけれどもどこかやり切ったような表情のスタッフとお疲れ様を言い合って、先に帰るスタッフを見送って、冷蔵庫の奥に取ってあったチョコレートケーキを取り出し、1人、仕上げの作業をする。
「ちゃんと予約して買ったの」
そう説明をすると、「そうなんですかぁ。これから彼氏とラブラブな夜ですか?羨ましい~」と微笑む。
「お疲れ様でした」と爽やかに挨拶をして、その子はスタッフルームに消えて行った。
私の作ったケーキを持って、諭の住む街まで行こうと決めた。
身体は疲れているけれど、それでも諭に会いたかった。
一目だけでもいい。
ケーキを渡して帰るだけでも・・・
クリスマス用のケーキは「スターライトパレード」と名付けた。
小さめのホールケーキで、スポンジとガナッシュがいくつもの層を作り、アクセントに細かく砕いたピスタチオを入れた。
生チョコレートでコーティングをし、トップはアラザンと食用金箔でデコレーション。
金色と銀色の店のロゴが入った星型のチョコレートを真ん中に添える。
闇の中で輝く星たちをイメージしたケーキはラム酒をきかせた大人の味だ。
「星に願いを」そんな意味を織り交ぜて、愛を語り会う恋人たちのために作ったチョコレートケーキだ。