大事なものは、いつでもそばに
「いつ、発つの?」

「…来週の卒業式の後」

「そっか…」

愛佳は、息を目一杯吸って一気に吐き出した。ちらりと私を見るが、言葉を探しているようだった。

「ねぇ、ちなみ?」

彼女は探るような目で、私を呼んだ。

「なに?」

私が聞き返すと、愛佳は何かを決意したかのように、口を開いた。

「ちゃんと、恭介くんに言ったの?」

一瞬だけ、私の目は大きく開いた。しかし、すぐに元に戻すと「恭介は、関係ないよ」と、笑ながらそう答えたのだ。

「んじゃ、今、ちゃんと言おうよ」

彼女は恭介の家を指差した。

「必要ないでしょ〜」

私は茶化すように即答して、横に首を振る。

きっと彼は知ってるはずだ。誰かから聞いて、耳に入っていると思う。でもそれでも何も言ってこないということは、もう私は用済みということだ。

それでいい。

私の仕事はとっくに終わっているのだから…

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