雪降る月夜に
Merry Christmas?
―――やっぱり、無理なのかしら。

この世界には、ないのかもしれないわ―――


「エミリー様。これ以上、塔から離れるのはお止めください」

「それに、随分冷え込んで参りました。もう部屋に戻りましょう」



背後にいる護衛達から、強い口調で制止がかけられる。

今日は専属護衛のシリウスさんがお休みだから、ウォルターさんが一人では心もと無いと言って二人も厳ついお方を付けてくれていた。

この二人、仕事熱心なのはとてもいいのだけれど、融通がきかないところがちょっぴり困る。



「えぇ、そうね。少し冷えてきたけれど、私はまだ平気よ。・・・もう少しだけ、奥に行ってみたいの。いいでしょう?」



顔を見合わせて渋い表情をした二人を強引に引き連れて、木立の奥まで進んでキョロキョロしながら歩き回る。



「ないわ・・・」



力なく、ひとりごちる。

ギディオン城の広大な敷地の中。これだけ木が沢山あるのだもの、一本くらいあってもいいと思うけれど。

小さくて構わないし、形があれに似ていれば、それでいいのに―――



故郷では、もうすぐあの時期が来る。

毎年ツリーを飾ってプレゼントを用意して、家族みんなで祝っていたあの日が。

これが近付けば、家も店も街路樹までもがきらきら輝くイルミネーションで彩られて、普段は何の変てつもない街並みがなんとも心躍る素敵な空間に変貌するのだ。

瞳を閉じれば、赤と緑に包まれたウィンドウや、金色にキラキラと煌く夜の街並みが色鮮やかに浮かび上がる。

この世界もそれに負けないほどに美しくて好きだし、なんと言ってもアラン様のお傍にいられるのだもの、何にも変えがたいくらいに嬉しいしとても幸せだわ。


けれど、冷たい風が吹いて葉が散ってしまった寂しげな木を見ると、やっぱりちょっぴり思ってしまうの。

少しでいいから、あの気分を味わいたいわって。

それに、アラン様や城の皆にも―――――


あれこれ考えるだけで心が浮き立ってくる。

だから先ずはツリーを飾って、と。

こうして樅の木を探して歩いているけれど、どこにもないのだもの・・・・どうしようかしら。



あの素敵な三角錐の形に似てれば、どんな葉でもこの際贅沢は言わないわ。



そう思えど、それすらも、見つからない。

こうなれば、やっぱりあそこかしら。

もっと沢山の変わった珍しい木がある場所。

あそこなら、希望通りのものがあるかもしれないわ。
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