蜜恋ア・ラ・モード


春はもうすぐそこまでやって来てるとは言え、車の窓から入ってくる風はまだ冷たい。

それでも空気の心地よさに風に吹かれていたら、窓ガラスが閉まってしまう。


「薫さん。あんまり長く風にあたっていると、風邪引くよ」

「気持よくてつい」


薫さんはどんな時だって、私のことを考えてくれている。

今日だってそう。私の身体を気遣ってくれて、ドライブに誘ってくれたんだ。

なのに私ったら……。

薫さんの優しさに甘えてばかり。頭の中は洸太のことでいっぱいで、薫さんに対しての反応も中途半端なまま。


「せっかく遠出してるんだし、今日はたくさん想い出を作ろう。だから、途中で調子悪いなんて言うのはなしだよ」

「うん、大丈夫。楽しみすぎて、はしゃぎすぎちゃったかな」


想い出かぁ……。

確かに薫さんと付き合ってから、こんなに遠出したのは始めてかもしれない。

そうだよね。こんなに天気もいいんだし、薫さんとの想い出を増やす大チャンス。

洸太のことは、一時の気の迷い。きっと三ヶ月も会ってないから、ちょっと感傷的になってしまっただけ。

薫さんと楽しい時間を過ごせば、また元の、薫さんのことが大好きな自分に戻れるはず。

私が好きなのは、薫さんひとりだけなんだから。

運転席の肘掛けにある薫さんの腕に触れると、その手を握りしめる。


「薫さん、ごめんね」

「どうしたの急に? おかしな都子さんだね」

「なんとなく、そんな気分で」


そうなんだ……と薫さんが呟くと、私の手を握り返してくれた。

薫さんの手は、いつも以上に温かくて。

この手をずっと離さなければ、私は薫さんと幸せになれる───

そう信じて、ゆっくりと目を閉じた。


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