蜜恋ア・ラ・モード

「んっ」


軽い痛みにも似た快感が身体に走り、我慢していた声が漏れ身体の力が抜けていく。

どうしたらいいの?

足だけでは立っていられなくなってきて無意識に彼の背中へと手を回し入れると、ギュッと抱きついた。

自分からしたこととはいえ心臓はバクバクと音を立てて、うるさくて敵わない。

意地悪なのに優しい。なんとも矛盾したことをされてるのに、彼から離れたくない。

そんな気持ちが彼の背中に回した腕に、さらに力を込めさせた。


「都子さんからそんなに抱きついてもらえるなんて、いいの? どうなっても知らないよ?」


今更『いいの?』なんて、聞くまでないと思うんだけど。

いくら恋愛経験の少ない私でもこの歳にもなれば、どうなってしまうのかわからないはずがない。なのにそんなことを聞く薫さんは私を子供扱いしているのか、ぽんぽんと優しく頭を叩く。


「都子さんの心臓、ドキドキしてる。あぁ僕がそうさせてるのか。ごめんね」


冗談なのか本気なのか。その『ごめんね』に、謝罪の気持ちはどれだけ含まれているのやら。

薫さんから身体を少し離し彼の顔を見上げるとそこには、意外にも爽やかな笑顔を見せるいつもの薫さんがいた。


「そんな顔をされると、今すぐここで押し倒したくなるんだけど?」

「そんな顔って……」


どんな顔? と聞くまでもなく、その唇を塞がれる。でもそれはすぐに離れると、耳朶を食んだ。


「でもまずは、麻婆豆腐食べないとね。都子さんを抱くのは、暗くなってからにするよ」


明るいと恥ずかしいでしょ? なんて言う薫さんはやっぱり大人で、何事もなかったかのようにキッチンへと戻っていく。

28にもなって子供みたいな私はしばらくその場を動くことができなくて、耳に感じた唇の熱さに身体中が火照るのを感じていた。





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