さよなら魔法使い
何も考える余裕もないくらいに限界まで働き、夕食を終えたらすぐに倒れて寝てしまえるようにして自分を支えていた。

これじゃ駄目だと、このままでは一生捕らわれたままになってしまうと腹を括ってきたのだ。

「こうなったら…とことん思い出してやろう。」

潤んだ瞳を閉じてまた音楽が包み込んでくれる空間に戻っていく。

「リース。」

階段を上る途中で階下からトゥーリの呼ぶ声が聞こえた。

リースは足を止めて彼女の方に顔を向ける。

「今日はノエルよ。幸せが訪れますように。」

そう言って祈るような仕草をトゥーリがしてみせた。

去年までのように翌日には逃げるように友人の家に行くのはやめよう、そう思った瞬間だ。

「ありがとう。」

幸せが訪れますように。

同じ様に祈る仕草をして目を開けた、自然に笑えていたと思う。

リースはしっかりと前を向いて自分の部屋へと戻っていった。

ノエルに祈るなんてこと、もう何年もしていない。

形だけはしていても思うことは早くこの場から離れたいということばかりだ。

それが願いであるなら、祈りに含まれるのだろうか。
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