普通に輝くOL
束縛されること
そういって郁香は帰宅した格好のまま出て行こうとしたが、直登は郁香の左腕をぐいと引っ張ると強く抱きしめて言った。


「違う!愛想がつきたんじゃない。
君を守りたいと思ってるのに、何も言ってもらえない、相談してもらえないのが悔しいんだ!
施設や親せきの家で孤立した生活や一人暮らしですべてやってきた君には、もうひとりで震える夜を過ごしてほしくなかった。

僕らが家族みたいに住みたかったのは、君をひとりにしておきたくなかったからだ。
徹朗じいさんも僕らと居てよかったと言ってた。
だから、郁香の存在を知ったときには、自分と同じようにみんなで支えてやってほしいと頼まれた。」


「そんなの・・・知らない。
私の知らないところで勝手な取り決めしないでよ。

私はいまさら、よそ様の兄弟に気を遣いながら生活なんてしたくないし、ましてや他人の男性ばかりと家族みたいになんて、できっこない。したくない!」



「うん。そうだよな・・・それは僕らが悪かった。
血のつながりもなく、小さい頃から同じ家で育てられたわけでもないんだから、兄弟みたいになんていかないよな。
それに、僕も君のお兄ちゃんにはなれそうもない。」



「えっ?」


「君が会社の面接を受けにきたとき、僕がいたのは覚えているよね。」


「ええ。入社式でじつは社長で・・・ってびっくりした。」


「僕は入社式で挨拶をしながら、君が入社してくれてよかったと思ってた。
女性アレルギーまで出る僕がそんなことを思うなんて、自分でも驚いてたよ。
だから、たまにながめるくらいの楽しみでいいと思った。

そしたら、徹朗じいさんの孫が君だということがわかって、もうこれは運命だと思ってしまったくらいすごくうれしかった。

いっしょに住んでくれる夢までみたくらいにね。」



「で、そこからはもう夢の実現のために必死だった。
それから、いっしょに住んでみたら毎日が発見の連続で、気が付けば必死になって仕事を片づけて早く家に帰ろうとする僕ができあがっていたよ。

前は家に帰ったら食って寝るだけだったのにな。
『直にい』って呼ばれて深夜に台所で話して小夜という妹がいるのに、君にお兄ちゃん風を吹かせて楽しんでいた。
けど、弟たちが君に安易に告白するのを見てそんな楽しみどころではなくなってしまった。」



「それは直登さんが優登たちと同じだったっていいたいの?」


「ああ。軽蔑するか?
ただ、僕の場合はあいつらと少しだけ意味合いは違うかもしれないんだ。」


「どういうこと?同棲までして・・・あっ・・・私を女としてやっぱり見れない?
同じ部屋で過ごしていても、何もないですものね。
それってやっぱり過去の出来事のせいよね。」


「うん、そうだね。
君には申し訳ないことをしてるのかもしれない。
アレルギー症状が出ないからって、心のリハビリをさせてもらってるみたいになってしまって。

ひとりにしたくないなんていいながら、僕の方が君にあまえてしまっている。
弟たちにきつくいったり適当に流したりしながら、自分がいちばんはっきりしていないことが情けないよ。

正直いうとね、君が大好きなのに愛してると言えない。
だから、ひどいことを言ってしまったり仕事でごまかしたりして。
だけど・・・捨てられたくなくて。
ああ~~~いい年をしてみっともないな。ごめん・・・申し訳ない。」



「直登さん・・・。
ああ~~もう、わかったわ。
これも運命だの宿命だのわかんないけどご縁ってやつよ。
めんどくさいおじさんの面倒くらいみてあげるわ。
そのかわり、私の許可のないセクハラ行為とこの家への女性の連れ込みは禁止だからね!
そのくらいのルールはあっていいでしょ。」


「了解。で・・・藤子さんと小夜は例外でいいのかな?」


「そうね、私が許可するわ。っていうか大歓迎よ。
さ、病み上がりさんは早く休んで。」


「お、おい・・・今度は邪魔者扱いかぁ?」



「そうよ。ここは私の方がたくさん出資してる場所なんだから私が主なの。
命令はきいてもらうわよ。うふふ」


「はぁ・・・大きく出たなぁ。
わかった。逆らわない方が身のためですね、主殿。
少し食べたら寝ます。」



「ええ、おやすみなさい。」


郁香は直登が医者にかけあって退院を早めたことを知っていた。


(ほんとはすごくうれしかったのに・・・。
自分でもなんで怒ってるのかしまいにわからなくなっちゃった。
止めてくれなかったら、ほんとに悲しかっただろうなぁ。)
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