普通に輝くOL
直登が出社して2日後の朝、郁香は碓井から突然社長秘書をへの異動を命じられた。


「碓井さん体の具合でも悪いのですか?
社長の身辺は自分以外できないって自負しておられるあなたが、突然そんな・・・。
アシスタントなら話はわかりますが、先ほどの説明をきくと私が碓井さんがやってる仕事と変わりないことをやるというか、思いっきり重複していますよね。」


「ああ。とても不愉快だ。
私には落ち度というものがないので、余計に不愉快です。」


「では、私が社長に辞退を申し上げれば解決ですよ。
はい、そうしましょう。辞退してきます。」



「待て!それはだめだ。」


「えっ!?」


「だから・・・その・・・私は君と社長のプライベートな部分を詮索する立場ではないが、お体を壊してしまわれたことといい、先日の古いマンションの件といい、君のフォローがなければ危うく経営者を失ってしまうところだった。

それに小耳にはさんだところによると、君たちは結婚はまだ考えていない様子ですし、社長はアレルギーがありますし・・・とにかく、社長のいちばん近いところで支える人間が必要なのです。

法人としての顔でのあれこれはこれまで通り私がすべて取り計らいますが、社長個人のサポートをお願いします。」


「あの、じゃ・・・部長たちのところは?」


「そちらはもう、新任を配置して行かせました。大丈夫です。」



「でも、私の異動は社長直々に碓井さんに命令したわけじゃないんでしょう?
だったら私は・・・行っても嫌がられるんじゃ・・・。」


「それはご心配なく。
あなたが広報に居た頃から、社長は理由をつけてはあなたの様子を見にいってましたから、嫌がるわけありません。
家でもお疲れでほとんど寝てるんじゃないですか?
おっと失礼・・・余計な詮索ですね。」


(碓井さんするどい・・・)

「では、とりあえずきいてみますね。
困った様子だったら、碓井さんのアシスタントにでもしていただけますか?」


「はい、それもなかなか歓迎しますが、おそらく大丈夫だと予想します。」


「そ、そうですか。(なんか・・・碓井さん優しくなった気がする?)」



コンコン!


「どうぞ。碓井、15分も遅刻なんてめずらしいこともあるものだな。」


「すみません、碓井さんは営業部長に新しい秘書を連れていきました。」


「なるほど・・・君が新任の僕の秘書ですね。
けっこうきつい仕事になりますけど・・・これからよろしく。」


「あ・・・でも私は正確には碓井さんのアシスタントなわけだし・・・本職の秘書じゃないので。」


「だったら本職になってください。
今夜から勉強時間もとってあげるから、そちらもがんばるように。
わからないことや試験問題のことは碓井がよくわかっているから、教えてもらうといい。

では、早速だけど出かける。
君も外出の用意をして。」



「どちらへですか?」


「すずらん荘だよ。
例の人たちの仕事ぶりを見学させてもらわないと!」


「わぁ。」


「じつは村白姉弟と連絡をとって、企画部の社員とアルバイトで研修所を完成させたんだ。
とくに建物の内部を大きくは変えていないけど、トイレ、バス、キッチンなどのリフォームやテニスコートの整備なんかはやった。

人材育成にも手がまわるようになれば、うちもプチ大企業っぽくなるだろう?」



「ええ、そうですね。ってことは、会社の赤字ももう・・・」



「なくなってるよ。堅実にやってきたからね。
あ、そうだ・・・外出の用意と言ったが、宿泊の用意もいる。
君の友人たちと夕飯といこうか。」



「えっ。でも、週末でもないのに?」


「遊びじゃないんだ。あくまでも仕事で滞在して、研修体験してみないと。だろ?」



「はい。だけど・・・びっくりです。
碓井さんがいきなり私に社長秘書になれって言ったり、勉強することになるとか・・・。

辞令ももらってないのに、どうなっちゃうんだろうって心配で。」



「まぁ。前から碓井にはなんとなく伝えてたんだけどね・・・。
碓井の顔を見ながら仕事をしているより、君の顔を見ながらの方がストレスがたまらないって。

あいつずっと聞いてない顔をしてたのに、今頃きいてくれたんだよな。
きっとすずらん荘のことを知ってだと思うけど。」



「碓井さんの方が何でもお見通しなんですね。」


「ああ、僕が気にしていることをさらっと言うんだな。
だから出世したんだな。」


「べつに出世なんてしなくてもかまいません・・・私は。
普通のOLでけっこうですから。」



「はぁ・・・郁香は欲がないなぁ。
あってもまわりに還元しすぎるんだったかな。
さ、30分後車のところに来てくれ。」
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